私は博士課程2年のときに結婚しました。
一般的には、「学生のうちに結婚する」と聞くと、少し早いように感じるかもしれません。
「就職して、生活が安定してからでもいいのでは?」
そう思う人もいると思います。
でも、博士課程に進んだ私にとって、「就職してから結婚する」という選択は、それほど単純なものではありませんでした。
博士課程に進むと、20代後半まで「学生」になる
博士課程に進学すると、順調にいっても博士号を取得するのは27歳前後になります。
私は運よくJSTや学振から研究に専念するための支援を受けることができましたが、博士課程の学生全員がそうではありません。
学費を払いながら、奨学金やアルバイトで生活している人もいます。私の旦那さんがそうです。
そして、博士号を取得してから、ようやく本格的に研究職を探し始めることになります。
私は、この時間の長さについてよく考えていました。
特に、将来子どもが欲しいと思っている私たちにとっては、
「就職して生活が完全に安定してから、結婚して、同居して、それから子どものことを考える」
という順番を待っていると、かなり先になる可能性がありました。
研究者のキャリアでは、そもそも「何歳になれば安定する」とも言い切れません。
だったら私は、人生のすべてを「安定してから」に先送りしたくないと思いました。
研究者同士だから、ずっと一緒に住めるとも限らない
もう一つ大きかったのが、私たちが研究者を目指しているということです。
研究職の公募は、自分たちの希望する場所に都合よくポストがあるとは限りません。
自分が今住んでいる県で働きたいと思っても、そこにちょうど自分の専門の公募が出るとは限らない。
相手も同じです。
つまり、研究者同士の夫婦には、将来的に別居を選ばざるを得なくなる可能性があります。
だったら、一緒に暮らせる今のうちに一緒に暮らしたい。
そんな気持ちもありました。
もちろん、別居になれば会うための交通費もかかります。
将来子どもを望むなら、そのためのお金も必要になります。
そう考えると、私たちにとって「今、一緒に暮らしてお金を貯める」という選択は、かなり合理的でもありました。
結婚して同居した方が、生活費は安くなった
そして、かなり現実的な話ですが、二人で暮らすと一人暮らしを二つ続けるより生活費を抑えやすいです。
家賃も、光熱費も、家具や家電も、二人で共有できます。
さらに私たちの場合、住んでいた自治体の結婚新生活に関する助成制度を利用することができました。
条件を満たしたことで、結婚に伴う住居費や引っ越しなどについて、60万円の補助を受けることができました。
その結果、同居を始めるための初期費用の大部分をまかなうことができ、さらに家賃数か月分に相当する負担がなくなりました。
これは、本当に大きかったです。
学生結婚というと、
「学生なのに、お金は大丈夫なの?」
と思われるかもしれません。
でも私たちの場合は、むしろ結婚して同居することで、それぞれ一人暮らしを続けるより家計を効率化することができました。
「いつ結婚するんだろう」という悩みから解放された
さらに、結婚してよかったと感じていることがあります。
それは、「私たちはいつ結婚するんだろう」「いつになったら一緒に暮らせるんだろう」という、ずっと頭の片隅にあった悩みから解放されたことです。
博士課程にいると、数年後にどこで働いているのかもわかりません。
博士号を取ったあと、どこでポストが見つかるのか。
同じ地域で働けるのか。
そもそも、いつ生活が「安定した」と言えるようになるのか。
考えれば考えるほど、「じゃあ私たちはいつ結婚するの?」という答えは見つかりませんでした。
でも、結婚して一緒に暮らし始めたことで、その悩みをいったん手放すことができました。
「結婚はいつか」ではなく、もう一緒に人生を歩いている。
そう思えるようになったことは、私にとって想像以上に大きかったです。
将来のことをずっと心配するために使っていたエネルギーを、少しずつ研究や自分の生活に向けられるようになりました。
しんどいときに、一人ではない
私は双極性障害Ⅱ型と付き合いながら研究をしています。
だから、いつも元気に研究できるわけではありません。
どうしても動けない日や、家事まで手が回らない日もあります。
そんなとき、同じ家に頼れる人がいることは、私にとってとても大きな支えになっています。
もちろん、パートナーに何もかも任せるということではありません。
元気なときはお互いに支え合い、どちらかがしんどいときには、もう一人が少し多めに担う。
一人暮らしをしていた頃には、体調が悪くても生活のすべてを自分一人で回さなければなりませんでした。
今は、「本当にしんどいときには頼ってもいい人がいる」。
その安心感があるだけでも、私はずいぶん生きやすくなったように思います。
そして、生活の土台が少し安定したことで、以前よりも研究に向き合いやすくなりました。
私にとって結婚は、研究を諦めるものではありませんでした。
むしろ、研究を続けていくための生活の基盤を、一緒に作ることでもあったのだと思います。
この結婚は、夫の英断でもあった
ここまで私が学生結婚を選んだ理由を書いてきましたが、もう一つ、どうしても書いておきたいことがあります。
それは、結婚を決めてくれた夫の英断です。
私たちが結婚を決めたとき、夫は24歳でした。
24歳という年齢だけを見れば、特別に若いとは感じない人もいるかもしれません。けれど、当時の夫はアカデミアを目指す学生で、収入の中心はアルバイトでした。
将来どこで働けるのかも、いつ安定した職に就けるのかもわからない。そんな状況で結婚を決断することには、少なからず不安があったはずです。
日本では今も、「男性が家計を支えなければならない」「生活が安定してから結婚するべきだ」といった空気があります。
少なくとも私たちの周囲では、学生で収入も安定していない男性が結婚を決めることは、かなり思い切った選択に見えたと思います。
それでも夫は、すべてが安定するまで待つのではなく、今の私と一緒に生活をつくっていくことを選んでくれました。
しかも、私たちカップルは私の方が年上です。
よく思い描かれがちな「男性が仕事を安定させてから結婚する」、「男性に何十万、何百万円する婚約指輪を買ってもらってプロポーズしてもらう」という形とは、少し違いました。
私には、妊娠や出産を考える上での時間的な不安がありました。一方で、年下の夫はまだ学生で、研究者としてのキャリアもこれからでした。学位をそもそも取れるのかという不安もあったと思います。
私たちは、世間で想定されている順番に自分たちを当てはめるのではなく、二人にとって何が一番よいかを考えて結婚しました。
私は博士課程で結婚することを選びましたが、それは私一人の判断だけで実現できたものではありません。
先の見えないアカデミアの世界で、当時24歳の夫が一緒に歩いていく覚悟を決めてくれたからこそ、今の生活があります。
今振り返っても、あのとき決断してくれたことに、とても感謝しています。
ちなみになのですが、二人で話し合って、結婚は6月28日にしました。3月14日は円周率の日ですが、6月28日はその2倍、タウの日です。さらに、6と28は完全数でもあります。一粒万倍日や天赦日など、おめでたい日に結婚しても良かったですが、数学の研究者を目指す私たちにふさわしいと思ってこの日にしました。
早朝にはタウの日&完全数の日ということで、マスマティカから「課金しないか」というメールが来ていた記憶あります笑。
さらに、結婚した2025年は、確か初めて6月中に梅雨が明けた年でもありました。雨になるかなと思いましたが、快晴の下、晴れやかな気分で婚姻届を市役所に一緒に提出しに行ったのが良い思い出です。
「就職してから」が、必ずしも正解ではなかった
もちろん、私は「学生はみんな結婚した方が得だ」と言いたいわけではありません。
自治体の制度には年齢や所得などの条件がありますし、結婚するタイミングは人それぞれです。
ただ、博士課程という少し特殊な進路を選んだ私にとって、
「学生だから結婚しない」
「就職するまで人生を待つ」
という考え方は、必ずしも自分に合っていませんでした。
研究者としてのキャリアが安定するのを待っていたら、いつになるかわかりません。
研究もしたい。
好きな人とも暮らしたい。
いつか子どもも欲しい。
お金も貯めたい。
どれか一つが完全に終わってから次に進むのではなく、私はこれらを同時進行で少しずつ作っていく人生を選びました。
博士課程2年で結婚したことは、私にとって勢いだけの選択ではありません。
将来の働き方や家族、お金のことまで考えた上で、「私たちにとっては、今が一番いいタイミングかもしれない」
と思って決めた結婚でした。
そして今振り返っても、あのタイミングで一緒に暮らし始めてよかったと思っています。
この記事が、結婚を考えている博士の学生に、少しでも役に立ったら嬉しいです。


コメント